金蘭会高校「人魚伝説」を観て

多くの人々の小さな唸りから始まった金蘭会高校さんの【人魚伝説】は、2時間10分という上演時間中、息つく暇も与えないほどに私の心を揺り動かしました。生きているからこその寂寞、憎悪、苦痛、悲哀、執着、それでもなお生きようとする人々の熱を確かに感じました。

好きなシーンが多く全てを語ることはできませんが、一番「すごいな」と思ったのは中盤のボクシングジムのシーンです。そのシーンでは沢山の人々がボクシングの練習に勤しんでいて、フットワークやワンツーパンチが自然で、きっと大変な努力をなさったのだろうなと感動しました。女子校であるにもかかわらずボクシングシーンや男女の愛憎を遜色なく描こうとする姿勢を見習おうと思いました。
また、同じシーンの、熱気に満ちたジムの中に金魚が入って来た瞬間の空気の変わりようが印象的です。一触即発の緊張感から一変してまた別の緊張感が漂い始め、片時も目を離せませんでした。金魚の「わたし淫売じゃない」というセリフが喉が張り裂けそうに悲しい叫びのように聞こえ、観客として胸が苦しくなりました。何かを信じようとして傷ついてしまうのは、金魚のみならず、ハル男ナツ男アキ男シキ男(セツ男はわかりませんが…笑)……その他の誰しもが抱えている寂しさの感情ゆえなのでしょう。

「わたしを買ってください」という金魚の声が、鼓膜にこびりついています。
口から吐き出された赤い糸の先に誰かがいると信じて、人は傷つくことを知っていながらもそれを手繰り寄せようとせずにはいられません。広大な海にただ独り投げ出されるのは、恐ろしく孤独なことだから。
その孤独に打ちのめされながらも、それでももがきを止めず、泳ぎ続けた金魚の美しさに心打たれました。

音照に関しても役者さんと息がぴったりで、そこからも金蘭さんの練習量をうかがい知ることができました。

素敵な舞台をありがとうございました。

東海大学付属大阪仰星高校 3年   工藤茉依